高知県内で芸術文化活動や福祉・教育活動などで活躍する個人・団体に対して、事業の金銭助成を行なっています。助成申請の受け付けは年2回。1月と7月の下旬、高知新聞紙面に募集広告を掲載します。申請書はこのホームページからダウンロードできます。また、当事業団でもお渡しできます。お問い合わせください。
芸術文化や厚生福祉を支援 金銭助成事業

2025年度春の助成【8団体】
西畑人形芝居保存会
地元の伝統 子どもたちと
明治時代に生まれたとされる西畑人形芝居は、右手で人形を持ち、左手で人形の両手につながる差し金を操る。その特徴は現代の人形劇にも影響を与えたが、発祥の地である高知市春野町西畑では戦後に途絶え、1996年に地元農家らの保存会が復活させた。
結成当時、県内に残っていたプロ劇団から人形の作り方や演目を習った。夜な夜な集まり作業する大人たちを見て、楠永芳奈子さん(42)は「一銭にもならんのに」とあきれていたと振り返る。
楠永さんは大学在学中に芝居や衣装作りを経験。改めて西畑人形を手に取ると「めっちゃクオリティー高い。匠(たくみ)の技術を持っちゅう」と驚いた。今では太夫を務め、義太夫節を語りながら三味線を弾く。
発足30年を前に今夏、地元の岐(ふなと)神社で子どもが人形を操ったり踊ったりの劇を披露する。前回上演した20年前から子どもは減り、子ども会は解散した。伝統の人形芝居は、子どもたちの居場所になることも目指している。
(二瓶満瑠)

保存会メンバーと地元の子どもたち(高知市春野町西畑の春野公民館西畑分館)
高知で平家物語を聴こう!実行委員会
音で味わう古典の世
〈祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…〉。平家の栄華と没落を武士たちの人間ドラマを交えて描いた平家物語は、琵琶法師たちが歌い継いできた「音楽作品」でもある。
その魅力を知ってもらおうと「高知で平家物語を聴こう!実行委員会」は5月17日、約800年の伝統を受け継ぐ琵琶奏者らを土佐町の三宝山地福寺に招き、公演を開く。会場の本堂内に竹明かりをともし、幻想的な空間を演出する。
「音の間や光、匂いなどの感覚が入ることで音楽の力も増幅される」と語る実行委員長の中山裕千(ひろかず)さん(48)は、高知大学で音を研究する学者。平家の落人伝説が残る嶺北での上演に意義深さも感じている。
幼い安徳天皇の入水など戦いの悲惨さを伝える描写もある作品だからこそ、「紛争が続く今の時代に掘り起こし、現代人の視点でストーリーを捉え直してほしい」と中山さん。古典に眠る普遍的なメッセージを伝えようと、一夜限りの特別ステージに磨きをかけている。
(谷沢丈流)

5月17日に催される平家物語の公演をPRするメンバー(土佐町西石原の三宝山地福寺)
高知県書芸院
伝統守りつつ挑戦も
「書道芸術の振興に寄与する」を理念に掲げ、今年創立70周年を迎えた高知県書芸院(楠瀬昭峰会長)。4月に記念展を開催する。
1955年、故・光本三千萬(みちま)さんを中心に創設された。現在、30代から90代まで約40人の会員がおり、日頃の勉強会や研究会を通して研さんを重ね、グループ展を毎年開催。県展や高知市展などの運営も支える。
「創立以来、伝統書道を受け継いできた。光本先生が漢字もかなも書かれていたので、漢字とかな、バラエティーに富んでいるのがうちの展覧会の特徴」と楠瀬会長。ベテランと若手の交流も活発で、互いの刺激になっているという。
記念展は4月8~13日、同市九反田の市文化プラザ「かるぽーと」で。伝統書道ばかりでなく、一つの臨書作品を3人で書き継ぐといった意欲的な作品を含む約80点が並ぶ。
楠瀬会長は「先輩方の経験を受け継ぐとともに、視野を広げ、新しいものを取り入れながら80周年を目指したい」と話している。
(小川一路)

創立70周年を迎えた高知県書芸院の会員たち(高知市桟橋通2丁目の市青年センター)
作陽高知県人会
50周年記念し音楽会
「次の50年に“作陽らしさ”がつながるコンサートにしたい」。「作陽高知県人会」が今夏、発足50周年を記念したコンサートを開催する。
岡山県にあるくらしき作陽大学(旧作陽音大)と、作陽短期大学の卒業生約400人でつくる同会。音楽を志す学生にとっては地理的に近いため、「高知には作陽出身の音楽人がとても多い」と、高知市内で楽器店を経営する尾原公完(きみさだ)事務局長(50)。
県内で楽器教室を開く指導者や音楽教員になる出身者も多く、その教え子たちが「作陽」を選択するケースも少なくない。尾原事務局長は「受け継いできたのは、音楽を楽しむ心。そんな気持ちが観客に伝わるコンサートにしたい」と意気込む。
50周年記念コンサートは8月30日、高知市高須の県立美術館ホールで。合唱のほか、独奏やアンサンブルを披露。同大教授で国内有数のオーボエ奏者でもある菅付章宏さんらのゲスト演奏も予定している。
(久保俊典)

作陽県人会が毎年開いている定期コンサート(高知市内=作陽高知県人会提供)
トイピアノコンサート実行委員会
優しい音色を楽しんで
トイピアノは「本物とおもちゃの間の大きさ」と言われる。トイピアニストの畑奉枝(ともえ)さん(61)=埼玉県=が自身を囲む4台を縦横無尽に弾くと、オルゴールのように幻想的なメロディーが響きわたる。
畑さんは各地でコンサートを開いており、四国公演を鑑賞したファンらが2022年に実行委員会を結成。メンバー7人が高知や愛媛などで20回を超える公演に携わり、会場の手配やちらし配りを担ってきた。
畑さんはジャズやクラシックのほか、統合失調症の兄が作った曲も演奏。実行委にも家族がアルコール依存症だというメンバーがおり、「同じような境遇の人にそっと寄り添う演奏。私のように救われる人がいる。一人でも多くの人に聞いてほしい」と支援する。
実行委は9月28日、香南市赤岡町の弁天座で畑さんの公演を開く。代表の羽澄愛子さん(73)=高知市=は「聴く人が癒やされ、童心に返る音色。全国でも珍しいトイピアノの演奏をぜひ楽しんで」と呼びかけている。
(田代雄人)

コンサートのちらしなどを手にしたメンバー(高知新聞社)
一般社団法人パンタナル
外国人と地域つなぐ
土佐市の阿部航太さん(38)、美香さん(39)夫妻は地域おこし協力隊員として、多文化共生をテーマに活動中。近年急増する技能実習生ら外国人居住者と地域をつなぐ取り組みに力を入れている。
具体的には、同市在住のインドネシア人、ベトナム人らとの食事会、スポーツ交流、防災訓練を企画。市に対しては、多様性のある社会づくりを目指す「多文化共生プラン」を提案し、策定が進む。
航太さんはブラジル、美香さんはアメリカでの滞在経験がある。多国籍や異世代の交流を体感し「価値観、食といった多方面でユニークな視点と新しい視野が育まれる」。その先に見据えるのが「共生」だ。
「活動が少しずつ形になってきた」と4月末の任期終了後も同市に残り、3年前に立ち上げた一般社団法人パンタナルを舞台に活動を続ける。今夏には文化人類学者らを招いてのトークイベントを計画。「独自の地域文化を育むヒントを得るきっかけになれば」と話している。
(谷川剛章)

今夏のトークイベントに向けて話し合う阿部航太さん、美香さん夫妻(土佐市高岡町乙)
土佐ジョン万会
大志抱く国際人育成
高知市の「土佐ジョン万会」(内田泰史会長)は毎年8月、全国の中高生を対象に「ジョン万次郎英語弁論大会」を開き、上位入賞者を米国へ派遣している。万次郎のように大きな志を持ち、国内外で挑戦する人材の育成を目指す。
ジョン万会は2012年に発足。弁論大会は15年からで、20年のコロナ禍の中止を経て、今夏に10回を迎える。審査では「英語力よりも、思いや情熱という『ジョン万スピリッツ』を重視する」という。
昨年の大会でも、生徒たちは「多くの人に誕生や生きる喜びを与える助産師になりたい」「万次郎のように土佐、日本と世界をつなぐ」と夢を熱く語った。
派遣先は、万次郎が暮らした米国マサチューセッツ州フェアヘーブン。現地で開催される「ジョン万次郎フェスティバル」でスピーチを披露し、現地の人たちと交流を深める。事務局の川村洋平さん(47)は「異文化交流で大いに刺激を受け、万次郎のように世界を股にかけて活躍してほしい」と願う。
(相良平蔵)

昨年高知市で行われたジョン万次郎英語弁論大会の出場者(土佐ジョン万会提供)
「Art in 高知ドキュメンテーション2025」実行委員会
アートで日常豊かに
「色」「音」「食」にまつわる絵画展やワークショップ(WS)などのアートイベント「Art in 高知ドキュメンテーション」を8月、県内の美術作家らが約2週間にわたり高知市内3会場で開く。
運営の中心メンバーは、会場となるカフェ兼ギャラリーを営み、創作活動も行う石井葉子さんと深田名江さん。ここ2年で同じ名称のイベントを2回行ったが「ハードルが高いと思われることもあった」。今回は幅広い層がより参加しやすい内容を意識している。
自然素材で顔料を作る越智明美さんの日本画展や、土佐和紙の器を使った地産地消スイーツの提供、土佐七色紙や薫物(たきもの)を扱うWSなど「古くからある文化で(感覚や知識を)アップデートする温故知新の企画」を検討中。音楽評論家ピーター・バラカンさんのトークや県内ミュージシャンのライブなども構想する。
「快い気持ちになったり出会いが生まれたり。アートで日常が少しでも豊かになれば」と願い、準備を進めている。
(徳澄裕子)

企画について話し合う石井葉子さん=右=と深田名江さん(高知市朝倉丁の「Equivalent(イクィヴァレント)」)